愛の唄・・・vol.1
「あー!!!」
静かな村に響き渡る声。
そしてその越えのすぐ後には一軒の宿から一人の少女がもの凄い勢いで飛び出してきた。
「蓮こらてめぇー!!」
「何だ騒々しい」
「何だじゃねぇ、このトンガリヤロー!!勝手に人の“桃饅”食いやがってからに・・・・っ!!」
道の真ん中だと云う事などお構い無しに、顔を真っ赤にしたは蓮につっかかる。
「あんなところに置いておくお前が悪いのだ」
そんなに対し、さも当然だと云わんばかりに蓮も言い放つ。
「んだとコラぁ!?“私の部屋”に置いておいた物を・・・・・蓮このヤロー!!」
しなやかな民族衣装に、綺麗な顔立ちをした少女からは想像がつかない様な暴言を吐いたは、
背中に挿していたロングボウを取り、蓮の前で構えた。
「貴様、何を・・・・・・」
「こうなったら死で償ってもらうぞ蓮!強弓inドワーフ!!!」
近くにフヨフヨ浮いていた持ち霊を無理矢理弓に押し込め、はすかさず矢を抜いた。
もちろん、そんなの行動に蓮は、どうしたらいいのか挙動不審に陥る。
「や、やめっ・・・・・・・」
「桃饅の敵ー!!!!」
ゴンッ!!
「いって〜・・・・・」
「な、何事だ・・・・っ」
がまさに矢を射ろうとした瞬間、2人の頭に重い衝撃が走った。
あまりの痛みにしゃがみ込んだ蓮とは、おそるおそる頭を上げる。
「ちょっとあんたたち、いったい何やってんのよ」
底の厚いゲタ、黒のワンピース、手には数珠、そして頭には赤のターバン
「「ア、アンナ・・・・・・」」
「そんなに葉と訓練がしたいのね。あなたたちの気持ち、よーく分かったわ。」
「ちょっとアンナ!これは蓮が・・・・・・っ!!」
「何だと!?貴様がくだらん事で・・・・・・!!」
「・・・・・・さっさと中に入って、食事の支度をしなさい。早くしないと……あんたらの持ち霊と同じところへ逝かせるわよ?」
「「は・・・・・ハイ」」
おとなしくアンナの言いつけに従った2人は、葉の帰りを待ちつつ台所で腕を揮う。
しかし、やはりここでも2人の格闘は続いていた・・・・・。
「だいたい、なんで蓮は人の部屋に入るのよ」
「俺は・・・・お前に用があってだな・・」
「あ?用??桃饅を盗み食いする用か?このうすらバカ」
「何でお前はそんな事しか言えんのだ!」
「あぁ!?っだとコラ!勝手に食っといて誤りもしねぇーで何様だあんた!!」
「あぁぁぁぁ・・・・・・何やってるんですか2人とも!!」
騒ぎに駆けつけたリゼルグがその場を抑え、双方を部屋に戻らせる。
たまにケンカをするとこうなるあの2人を、こうして一緒にしておく方が間違いなのだ。
例えばこの台所の残骸は・・・・・・
「ここで何があったんよ・・・・・」
包丁が壁に刺さり、床は水浸しの上、中途半端に切り刻まれたじゃがいもや玉ねぎ・・・・。
これらの殆どは葉が片付ける事となるのだ。【合掌】
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そして、いよいよの夕食。
あれから時間が経ったとは云え、蓮との顔には明らかに“不機嫌だ”という色が残っていた。
騒動の事を知らない者は殆ど無く、2人の席は自然と遠くなる。
食事がはじまっても、そのオーラで話ができる状態ではなかった。
が・・・・・・
「葉、リゼルグ、アンナ、注意して食べないとそこのトンガリに見境無く食われるぞ」
「「え?」」 「・・・・・・・・」
ガタッ・・・・・
「竜、まん太、ホロホロ、その食い意地の張った変な民族衣装の女の近くに居ると、盗み食いをした
とわめかれるぞ」
「「「は?」」」
ガタガタッ・・・・・
「この誇り高き民族衣を変呼ばわりするとはこのヤロー!!!」
「貴様こそ人の頭をトンガリなどと・・・・・・!!!」
「「許せんっ!!!」」
またはじまった2人のいがみ合い。
ここぞとばかりに立ち上がり、遠い席などお構い無しに暴言を吐きまくる。
もうこうなったら誰も止められません・・・・。
「こんのー!!」
「だまれー!!」
ガシャン!
ドカッ
バリッ・・・・・!
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
「ア・・・・・アンナ、抑えて・・・・・・・・・」
「あんたたち・・・・・・・いいかげんにしなさーい!!!!!!」
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ちゃぶ台返しを同時にやってしまった2人は、葉の仲裁も虚しくアンナに買出しへと出されていた。
「他の奴の分はともかく、私の食事を用意して頂戴」と。
もちろん・・・・と云ってはなんだが、ちゃぶ台返しの後始末は葉に任せて。
2人仲良く(?)街を歩く。
「何で俺がこんな事を・・・・・・・だいたい貴様は限度を知らんのだ」
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
「聞いているのか・・・・・・」
蓮が後ろを振り向くと、さっきまで居た筈のの姿は無く、寂しく通り過ぎてゆく沈黙だけが蓮に残った。
「ふんっ・・・・・勝手にしろ」
言い返してくる相手がいないと知ると、未だ湧き上がる怒りを抱き、蓮はそのまま街へと消えていった。
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蓮が宿へ戻ったのは、あれから1時間後の事だった。
ダメにしてしまった分の食料を自持ちの金で買う。
それだけの事で1時間。
ご立腹のアンナを避けたいが為に葉に物だけを手渡す。
「おぉ、遅かったな蓮。」
「あぁ」
「またケンカでもしてきたんか?」
「うるさい!さっさとそれを持って行け!!」
「分かってるって。ところでは?」
「戻ってないのか?」
「まさか・・・・・置いてきちまったのかよ蓮・・・・・」
「・・・・・・・そのうち帰ってくるだろう」
怒り半分、心配半分、そしてその中に焦りが少し。
部屋でいくら待ってもは帰ってこない。
ケンカの原因をつくってしまったのは自分、用事があって来たのはこの部屋。
食べてしまったのはちょっとした出来心で、それを悩むだけ悩んで買ってきたのは、今手元にある桃饅。
まだに謝ってもいない。
探しに行くべきなのかと迷ってはいるが、ちっぽけなプライドが連を邪魔していた。
そしてどんどん時間は過ぎる。
温かかった桃饅も、今では蓮の手の内で冷えきっていた。
が消えて日が移り変わろうとしていた時、蓮の目先にあったドアがゆっくりと開かれた。
「っ、今まで何を・・・・・」
「あら蓮、こんなところで何してるのよ?」
そこから顔を出したのは、待ちに待った人物ではなく、アンナの姿だった。
風呂から上がったばかりのアンナは、肩からタオルを下げたまま、の部屋にいる蓮をまじまじと見つめる。
「いつも一緒に入りたがるがいないから、ちょっと心配になっただけよ。ところで蓮、は?」
口篭る蓮に苛々しだすアンナ。
「まさかあんた・・・・外に置いてきたわけじゃないでしょうね・・・・・?」
「・・・・・・」
「名に考えてんのよコノバカ!!は確かに強い子だけど、あんたココを何所だと思っているの!?
あの子より強いシャーマンなんてうじゃうじゃいるのよ!!」
が消えて6時間。
日付も変わり、寝静まる夜の事だった。