オレが顔を隠す理由


オレが白を欲する理由


オレが偽る理由


オレがオレと言う理由




全てはオレの為だけに































act 4 : 「誘惑dance」





























その晩、買い物から帰ってきた八戒とは、妙な雰囲気を醸し出していた。

お互いに何かを考え込んでいるような、そんな空気だ。

は晩飯はいらないと言ったので、食事はまた三蔵たちだけだ。

食卓には、今日が運んできた食材が並ぶ。




には過去に何か深い傷がありそうですね」




何の前触れもなく、八戒は言った。

突然の事に箸を止めた悟浄は八戒の顔を見つめ、三蔵はどうでもよさそうに食事を続けている。

八戒の言う事は、誰にでも想像できる様なものだった。

奇跡の神仔として産み落とされ、あのような容姿を持つ彼が、普通に生きてこれましたと言う方が、合点がいかない。

勿論、八戒だってそれが解っていないで言った訳でもない。




「今日、買い出しにが付いてきてくれた時、何故白づくめにしているのかと訊いたんです。」





その時はこう答えた。








―――これは大切な人の色だと―――









あの時の少年の瞳は、哀を一層強くしていた。しかし、あれはまるで……




「あいつは女だ」

「えぇ!?は男だろ!!?」




三蔵は最初から感づいていたと言う様に、はっきりとそう言い放った。

かと言って、一方の八戒自身は、あの状態のを見るまで、疑いもしなかったのだ。

が持つ神秘的なものが何であるかも気付かず、そしてそれを追求しようともしなかった自分は、知る事を恐れていたのかもしれない。

美しいものでは無かったであろう少年の過去を見る事で、自分の身が焼かれる思いをする事は想像に容易かった。

しかし、知りたいと思ったのもまた、自分であるのだ。




「三蔵、貴方は何故そう思うんです?」

「三蔵、お前まさか……をひっぺがしたんじゃねぇだろうな!?」

「……貴様と一緒にするな、エロ河童。そもそも見てりゃあ判るだろーが」


「三蔵。貴方は、から何かを感じ取ったんですね」




推測や願いなどではない。

三蔵は、初めてを見た時から気付いていたのだ。

人間同様の見た目や素質を持つ彼が女性として存在しているのであれば、大勢の妖怪を相手にするあの体力や戦闘技術を持つのは、

常識的に考えれば不可能な事である。

しかし、それが奇蹟の神仔に備わった力と考えればどうだろうか。妖怪が通常の人間に比べて兇器を備えている事を思えば、おかしな話

ではない。

では、本人が自分を男と言い張る理由はなんだというのだ。




「三蔵教えて下さい。奇蹟の神仔とはいったい……」

「さぁな」


「三蔵っ…」

「やめとけ八戒。こいつにゃ何聞いたってきちんと答えたりなんかしねぇーよっ。そもそもあれだろ。俺たちは、今のあいつを受け入れ

てやりゃーいい。違うか?」


「悟浄……そう…ですね。僕、どうかしてたみたいです…」




いずれ殺さなくてはならない相手を詮索してはいけない。

これ以上お互いを知ったところで、交わされた約束が変わる訳ではないのだ。

けれど、自分たちはどこかで期待している。

こんな事など忘れ、不安も無く、平穏な日々が来る事を。

なんて傲慢な考えなのだろう。

その中で、三蔵だけが違った。そんな平和な日常など来る事は無いと、彼が一番良く解っているのだ。





















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皆が食事をしている間に風呂をすませたは、着替えを終え、いつもの様に口当てをした。

ふと見た自分の手は、震えている。

満月の夜は、決まってそうだった。

昔から、この日が来ると体の震えが止まらなくなる。

先月あった満月の夜を思い出し、はくしゃりと自分の髪の毛を掴んだ。

金色の頭髪、瞳孔が開いた目。

こんな日々が、自分が嫌で、強くなる決意をした。

戦う決意をしたのだ。

父に護られ、友に救われ、“あいつ”に強さを教わった。

自分は、「誰かに生かされてきた存在」なのだ。

満月がやってくる日は一日たりとも外に出ることはおろか、窓の外を覗くことすら出来なかったのに、今では随分とましになったものだ。

何かをぐっと我慢し、自分の片手首を強く掴んだは、無理矢理震えを押さえ込んだ。

本当は、こんな事などしたくない。

もっと、




――もっと強くならなくては

――もっと もっと












「違う!!!違う……違うんだ………」




突然ベッドを殴りつけたは、自分を否定する様にそう叫んだ。

錯綜する頭を押さえつけ、前のめりに体を折る。

その時だった。何の前触れも無く部屋の扉が開き、部屋に何者かが侵入してきたのは。




、返事が無かったので、勝手に入りますよ」




その人物――八戒は、後ろ手にドアを閉めると、備え付けのテーブルに食事らしきものを置いた。

はそのノックの音にさえも気が付かなかったのだ。

目だけをぎょろと動かし、は八戒を見る。

そんな少年の様子を見て、どこか心配そうに八戒はへ声を掛けた。




「どうかしましたか?」

「いや、なんでもない……大丈夫だ。」




しんと静まる中、部屋にある何かに違和感を覚えた八戒は辺りを見回す。

その視線の先には、ベッドの隅でこちらを向いているの乾ききっていない髪、そして、その先にある開け放たれた大きな窓があった。




、あなた……」




窓の外には、狂喜する満月。

それに照らされた少年の頭髪は、狂おしい程の金に輝いていた。

八戒は、今日が満月だという事を一時でも忘れていた自分を、少なからず恥じた。

朝、昼と普通に見えていたこの少年と謂えど、こうして直接、この様なものを、自らの目に入れて平気でいられる筈がない。

雨音を訊いただけでも厭な気分になる自分を思えば、容易に想像のつく事だった。

例え、この少年に昨日今日出逢った仲だとしてもだ。

こちらを向く少年の目は、怯えていた。赤黒い瞳が、人との関わりを拒絶し続けた日々を物語っている。

気丈な少年は、震える躰を抑え、目を細めると八戒に少し笑って見せた。




「飯、持ってきてくれたのかよ?」

「………えぇ」


「なんか、ごめんな。迷惑掛けちまって」

……」




“この少年を、少しでも救えるのであれば……”

八戒は、そう思った。

けれど、この者がそれを拒否する事は知っていた。

きっとは、人の温もりを畏れているのだ。周りの者が、自分のせいで消えていく様。

そして、次第に人間界から隔離されていった孤独。


そうしてここまで生きてきた。

強くなるという事は、時に哀しいものなのだ。




「食ったら片しとくから、八戒はもう休んでくれよ。」

「え……えぇ。わかりました。では、お願いします」


「あと、悟空には気にせず戻ってきてくれるようにも言ってくれな」




悟空だけでなく、他の三人をも気遣うの発言に、八戒は少し驚く。

「えぇ」とだけ言う八戒が部屋の扉に手を掛けると、背後で自分の名が呼ばれた。




「八戒。オレは……オレは、生きる限り、自分の現実から目は逸らさねぇから」






少年の目的が達成されるのは、いったいいつ頃なのだろうか。

そんな日など、来なければ良い。

いっその事、この月が消せるのならば。


























*******************************************************




「おう、八戒」




三蔵の部屋に居た悟空、悟浄は、顔を見せた八戒に視線を向けた。先程までの部屋に居た八戒は、その言葉に笑顔で応える。

何かあったのかと言う一同の顔に、何もないですと言う八戒は、また少し様子が違っていた。




「食事、ちゃんと摂ってくれるみたいです」

「ほぉ〜。で、お前は気を利かせて出てきたってか?」


「まぁ……そんなところです。悟空、からの伝言で、“そろそろ戻って来い”だそうです。」

「おう!じゃあ、俺もう行くなっ」




悟空が立ち上がった事を合図に、部屋を後にしようとする一同。

その中で、三蔵は一つの後姿を見つめ、小さく舌打ちをした。

何があったかは知らないが、どいつもこいつも容易く深入りをする。

街に入ってからの少年の人の惹きつけ方を見れば一目であったが、ここまで急速に事が運んでしまっては、三蔵も後悔せざるを得なかった。

しかしこの時、三蔵自身も、既にへと一歩足を突っ込んでいる事など気付いていない。

本当はあの時から、自分が少年に心を動かされている事など。






部屋に戻った悟空の目に入ってきたものは、本を手にベッドで寝転がるの姿だった。

横目でちらりとこちらを見ると、「おう」と言ってまた本に視線を戻す。

それは凄く自然な光景だった。

とは言っても、悟空がとこうして二人になる事は初めてである。

悟空は、まるで小動物が人に懐いたかの様にの元へと駆け寄った。




「えぇぇ……」




その俊敏さにびくりとしたは、警戒した様に一歩後ずさる。二つのベッドとの境目に身を小さくし、こちらをじっと伺う悟空を見て、一

筋の汗が少年の頬を伝った。




っておん……いいや、何でもないっ!」

「おん?なんだよ、それ……」

「俺はどっちだっていいや!お前、どっちにしたって強ぇーもんなっ!」

「……は?」




自己完結したかの様な悟空に、は訳が解らないといった風に、また本の文字へと目を走らせる。

しかし、隣に居続ける悟空には、そんな無言の物言いなど通用しない。




「なぁなぁ」

「……何だ」

「俺もの顔見てみてぇ!」

「……え?」

「だって、さっき八戒が来た時はそれ取って飯食ったんだろ?」




そう言われたは、少し考ええてから口を開く。




「あぁ……オレが食ったのは、八戒が出ていってからだよ」

「ええー……じゃあ、もう食い終わっちまったのか?」


「うん」




頬を膨らます悟空に、困る

今だに自分の顔をじっと見つめてくる悟空に、そんなに顔が見たいのかと、少々呆れてしまう。

そりゃあ、多少は気になる事であろうが、そんなに見なくてもいいではないかとは思った。

そもそも自分が男だと言っている手前、若干気持ち悪い絵であるなと、は第三者の目線で考えてしまう。




「……そんな見てたってこいつに穴が開いて、オレの顔が見れるもんでもないぞ」

「ぶーーー」


「よし、もう寝るか悟空!電気消すから布団入っとけ」




無理矢理話を変えたが立ち上がると、渋々ベッドへ横になる悟空。

ぱちんと音を立てて灯りが落とされると、潜った布団の先から、少し顔を出した悟空は、床に就こうとするを覗き見る。




…明日は……」

「ん?」

「明日は、一緒に飯、食おうな」




言うやいなやすぐに寝息を立てる悟空。

目を丸くしたは、暫くの間悟空の寝顔を見つめていた。

いったいこの人たちは、どれ程自分に近付けば気が済むのだろう。

は静かにベッドから降りると、眠りこけている悟空の傍に寄り、大きな口当てを外した。






「オレはこういう顔してんだ。……忘れんなよ」






その時、自分はどんな顔をしていたのだろう。

背後にある月を見遣り、少年は後幾ばかの自分の命を思った。

気を抜いた瞬間、またカタカタと震えだす自分の体を押さえ、は静かに瞳を閉じる。

明日になれば、この月は消え、自分は“普通の人間”に戻れる。

そしてまた、廻る干汐に怯える日々がはじまっていく。

































管理人管理しろ : ここは二人をメインに書いてみました。
悟空        : やっと俺の出番だ!
管理人管理しろ : そうです!しかも相部屋だYO!!次も悟空でいっぱいだあああ!!
悟空        : やっり〜〜(>_<)!俺、もっとと遊びたい!
管理人管理しろ : 任せとけっ!(ばしぃ!!)そして殴られた、何故!!?
三蔵        : 二人バカ同士戯れてんじゃねぇ!猿山か、ここは
悟浄        : なんかお前、俺の事ナメてねぇ??
八戒        : まぁまぁ、今回は僕中心で、いい話だったじゃないですか
悟浄        : 八戒お前……;;
管理人管理しろ : 前回含め、八戒贔屓なのはまぁ……すいません;;
            ここまで読んで下さって本当にありがとうございます。
            この小説が甘くなる事はあんまり望めないかもですが・・・・気楽に頑張ります^^/

三蔵        : 続きはここだ。逃げるんじゃねぇぞ。=