006.サヨウナラ
†練金術師と練禁術師†
夕食後に設けた紅茶の時間では、執事であるも顔を見せていた。広い空間に灯るオレンジ色の光が静けさを生む。
綺麗に並べられたコース料理に舌鼓をうった後の席は、なんとも穏やかなものだった。
「僕たち、こんないい扱いを受けていいンデショウカ?」
「お客様に御もてなしすることが私の務めですので。しかし、その様なお言葉を頂けて、私も光栄です。」
「さんって、凄いよね。こんなに若いのに、しっかりしてて」
「ありがとうございます、まん太様」
「ところでさん、僕らはいつ頃、主人にお会いできるのデショウカ?今は暫く外出しているとのコトデシタガ…」
「えぇ。その事についてですが」
改まったが、二人に断りを入れ、椅子に腰掛ける。
「ファウスト様が仰るとおり、マスターは現在アメリカから出ており、こちらには居りません。ファウスト様から契約の
サインを頂いたことを連絡をした際、マスターから幾つか託を預かりました。今、お話しして、宜しいでしょうか?」
「えぇ。オネガイシマス」
が貰った託とは、次のような内容だった。
主人の帰りは一ヶ月先になるということ。
その間に、準備できることは、全てに託されたということ。
そして、準備は、ファウストの知恵との知識を持ってして行うこと。
以上だ。
これまでの施術支援をしていたの知識があれば、難しいことではなかったし、いざとなったら話機を使って主人
とも話しができる。
その様にが伝えると、ファウストは突然ぐいと彼女に近付き、その手を握った。
「サン、貴女は、ご主人の助手でもアルノデスネ!これまでに、どんな蘇生が行われてキタノカ、是非僕に話して
クダサイ!!」
「ファ…ファウスト様、落ち着いてください……。」
顔を引きつらせたがファウストの手をばっと振り払う。それでも、興奮したファウストはいつまでも嬉しそうで、聞く
までは眠れないといった面持ちで、執女に迫っていった。
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狼が野生の姿を徐にする刻。
用意された部屋で目を開けたファウストは、遠くで何かが動く音を聞き、頭を上げた。屋敷を気味悪いとは感じる事は
ないのだが、此処へくる途中の道から何かがおかしい。
青白く光るエリザの骨を見ると、それを片手にファウストは部屋を出た。
ギギッ キィィー
軋むドアの奥、机や棚に置かれた蝋燭の火がゆらゆらと揺れた。其の同じ所から、何かを漁る音が聴こえた。
車輪の音を立てているのにも関わらず、尚も止まない定期的な音は、どこか焦るように繰り返されていた。
バサッ パラパラ ドンッ バサッ パラパラ ドンッ
「サン?」
「っ!!!?」
バサバサバサバサッ
何度も同じ事を繰り返していた為、詰み上げられた書籍は、が驚いたと同時に崩された。もの凄い集中力だった
のだろう。
真後ろに居るファウストを見ると、数秒の沈黙の後、彼女は焦った様子で身の回りを整えた。
「こ…んばんは、ファウスト様。どうかなさいましたか?」
「驚かせてシマッテ、スミマセン。一度起きたら眠れなくナッテシマッタンデス。さんは、何をしていたんデスカ?」
「わ、私はその・・・・・・・・・・」
「遺伝子培養と降霊術法を用いた人体完全蘇生第一章・・・・・・・?」
「そ、それはっ・・・・・」
ひょいと持ち上げた本の間には、殴り書きされたドイツ語のレポートが挟まれていた。他人のものだと解っていても、
魅入ることが止められない。医学者、ネクロマンサー、シャーマニスト、これらの様々な観点から捉えられた柔軟な
発想に釘付けになる。。
「素晴らシイデス…!こんな方法まであったなんて……!!」
「そんなこと、ないんです……」
「え?」
「あ…!いえ、なんでも・・・・」
「これはご主人のものデスカ?」
「え、あ・・・はい。これから役立つと思いまして、探していました。」
「とても熱心なんデスネ。僕もこれがあれば助かります。ありがとう、さん」
にっこりと笑ったファウストにまた驚き、後ず去ったは、つい書庫の棚に背中を打つ。と、その拍子に本はバサバサと崩
れ落ち、頭を覆ったが数秒その体勢でいると、自分の上に降ってこないものをおかしく思い、ゆっくりと上を向いた。
するとそこには、「大丈夫デスカ?」と顔を覗き込む近距離のファウストがの目に映った。青白い顔に優しい笑みを湛え、
奥深い瞳が自分をはっきり見つめている。
瞬間にその足で立った為バランスを崩したのか、彼は崩れ落ちた本のようにの前へ膝を付いた。逸らせなかった目は
宙を泳ぎ、何があったのかと、は混乱していた。最後にファウストの頭上に落ちた本がバタンと床につくと、時間が止まっ
たかのようにも彼の前に膝を付いた。
「ファ、ファウストさっ……ご無事ですか・・・!?」
「えぇ。僕は大丈夫デス。さんハ?」
「私は…なんとも・・・・・・」
「ヨカッタ。じゃあ、これを片付けまショウカ?」
「ありがとう…ございます」
「イイエ」
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あれからいったい何時間経ったのだろう?
本を片付けはじめた2人は、片割探究心いっぱいの人間がいる為、まったく仕事が捗っていなかった。会話と言えば、
たまにファウストがする質問のみだ。
「この本は見ていいデスカ?」
「この公式に続きはないんでショウカ?」
「ここに書いてある降霊術法ですが、どういったケースで試したモノナノデスカ・・・・・?」
そんなファウストの質問には、"マスターでないと解らない”と返答をしていたが、どこかその目はキラキラとしていた。
そんなファウストにつられたのか、本を棚に収める作業を中断し、2人して医学書や術書に読み耽っていた。
「・・・・・・サン」
「サン?」
「は、はい!」
いつの間にかペンを片手に何やら書き殴りはじめてしまったは、自分が呼ばれた事に気がつき、やっと顔を上げた。
上げたのはいいが、またファウストの面がどアップに写り、あまりの驚きに、無意識に後ずさりする。
「な……ど、どうか、しましたか?」
「コレを書いたのは、さんデスヨネ?」
あるレポートを指したファウストは無垢に笑うと、その隣にちょこんと座る。レポートの内容を褒めちぎるファウストに、
は持っていたペンと紙を咄嗟に隠した。
さっきから自分じゃ解らないと言っているのに、やたらと意見を求めてきたり、今の様に、がまるで蘇生のプロで
あるかの様に話しかけてくる。その様子を見て、は少なからず、嫌な予感がしていた。
ファウストは、ぽやんぽやんとしている見た目に反し、とても勘が良い様だ。
気をつけなければなぬと、は思った。
「ファウスト様は、何か勘違いされている様です。私は、飽くまでマスターの執事。私には、そんな知識も、知能もあ
りません。この様な者がファウスト様と蘇生の準備など…本当に、恐れ多くてなりません。」
それ以上のファウストからの言葉を遮るため、はその様に締めくくった。
本当は、知識も知能も十二分に備え持っている。しかし、彼女には隠しておきたい理由があった。
そんなことも、やがて無意味になってしまうことにも、気付かずに。
まん太くん、ちゃんと居ますからね!;;
まん太くんの出番が少なくて、非常に申し訳ないと思ってはいるのですが…;
思うだけで、出すことは罷りならんのです。笑;
引き続き、お付き合い頂けると嬉しいです^^!
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