突然空が暗雲に染まり、カカシは悟った。

あいつが帰ってくる………と。










::Re:mem:ber::













晴天から雨でも降りだしそうになる天候を見て、ナルトは嫌そうな顔をした。

どこでフラフラしているか知れない自分たちの師を見つけ、やっとその教えを頂こうとした矢先の事だったからだ。

人と云えば力を磨く忍しか来ない様な場所で二人は落ち着いていたというのに。

ナルトは不貞腐れた顔をしカカシを垣間見ると、上忍は唇に人差し指を当て、険しい声で制止の言葉を吐いた。

近付く暗雲に焦りが募る。



「なぁ、カカシ先生ぇー」

「シッ。一寸黙ってろ」



カカシが機敏にそう云うと、ナルトの背筋がぞくりとした。

ナルトの背中、カカシの視線の先に膨大なチャクラを抱いた何かがいる。

其れを思った瞬間ナルトの体が凍りつく。

動けない。

目だって自分の後ろを捕らえたままで、少しも動かす事は出来なかった。

その時だ。一瞬空がピカッと光ったかと思うと、気配のある辺りで雷鳴が轟いた。地震の様な唸りを上げ、ナルトの緊

張も頂点に達した。

の、だが、それは案外素っとん狂な形で正体を現したのだ。



「………やっぱあれかなぁトム先生。君の髪型はドツボだよ。」

「や。今帰ったの?あの任務に“二ヶ月半”ってちょっと時間掛け過ぎなんじゃなーい?」



現在、こうして交わされた言葉にナルトの視線は所在を失う。

そんな生徒の様子にカカシは大きく頷き「もう大丈夫だ」と、ニカっと笑って見せた。

そうして体の自由を許されたナルトは恐る恐る後ろを振り返ると、そこに一つの影を確認した。

空が晴れるにつれ形を得たそれは、忍の格好に木の葉マークを携えた色白い女性だった。目は半開きだし、眉をお

もいきり上げて人を小バカにする様な顔で立っている。



「・・・それがねぇ、サム先生。寄り道してたら結構掛かっちゃってね。一ヶ月前に報告はいってると思うの。」

「へェー。それはさぞ楽しい寄り道だったんだろうねぇ。っていうかトムかサムかどっちかに固定してくれない?」



どうやらカカシと会話しているのは上忍の人間らしい。二人の会話は成立しているのかしていないのか全く理解でき

ないナルトだったが、近付いてくるその人に妙な期待感を持ちはじめている。

首の後ろを掻き乍ら近付いてきたそれに、なんとなく朦朧としていた骨格が浮き上がり本当に人間なのだと実感した。

細いせいか肢体がやたら長く見える。そしてそれは、今気付いたと云う様な顔をしてナルトを見つめた。

上忍にしては若い。カカシより自分の方が歳が近いのではないだろうか。そんな顔だった。



「あれ、サル先生。これは先生の生徒さんですか?」

「・・・あぁ、ナルトだ。それよりお前、いい加減派手な登場やめてくれない?ナルトがちびる」



そうなの?と真顔で訊いてきた上忍に、ナルトはカカシへ抗議する。

顔を真っ赤にするナルトを見て、上忍も上忍で「それじゃあやめる」とか云うものだから力が抜ける。どうやらこの人

間に慣れているカカシも、これには腰を折られてしまった様だ。掴みどころのない同僚に苦笑する。

ナルトもこんな人物に興味を持ち、恐る恐るではあるがそれに声を掛けた。



「な………なぁ。さっきの術、なんていうんだ?」

「あぁ、カリホくん!このカカト先生より君の方が話が通ずるねぇ!?これは“雨宿りの術”と云ってね」



究極の技なのだよ。自然を見方につけて雲を動かし、自らを雷に宿す事で的を打つ!とか何やら訳の解らぬ事を云

い、終いには「やりたければ君も上忍に成り給え!」とか偉そうにナルトへ説いた。

これを無表情に、ただ威圧的に云っただけでナルトはこの上忍へ羨望の眼差しを向けてしまうのだから恐ろしい。

サルだかカカトだかと云われたカカシにとって、「それはチャクラ練られる人なら誰だって出来るんだよ」なんて、ナル

トが可哀相で云い難くなってしまうのである。






『上忍に成り給え!』





――悔しかったら上忍になる事だな――






あれから何年経つだろうか。カカシはあの時、彼女に云った言葉を思い出していた。


酷い雨。髪の先からは幾つもの冷たい涙を流し、劈いた一つの小さな生命の前に彼女は佇んでいた。とても穏やか

な顔をしていたんだと思う。心が悲鳴を上げる声を、静かに聴いていたんだと思う。

抱きしめて、もういいんだと云ってやりたかった。

目を瞑って逃げてもいいんだと。

けれど自分から出た言葉はそれと真逆のものだった。

中忍だった彼女が上忍になったのは驚愕の早さと云える。しかし彼女が里で期待のホープと成り得なかったのは、

自身の意思だ。任務以外での他人との接触をやけに嫌う。

今だってそうだ。意味もなく一人で行動している。否、意味はあるのだろうが。お陰様で彼女は得体の知れないもの

になってしまっている。

得体の知れないもの………自分と同じではないか。

カカシは自分とそっくりな人間を見つめ、苦く笑った。

すっかりナルトを手懐けた上忍は、相変わらず意味不明な事を口走っている。



「ナリホ君、見給え。あそこに居るトサカ先生は君に教えを与える気など毛頭ない様だぞ!頭もトサカ立っているから

ああいう阿呆面になってしまうのだ。」

「ナ、ナリホ……!?」



客観的に見ていると面白く聴こえなくもない会話にクククと喉で笑い、カカシは座っていた石から腰を上げた。



「おーいナリホー!そろそろはじめるぞー。それとお前はさっさと火影様に報告してこーい。カンカンだぞぉー」

「ナ、ナリホってカカシ先生ぇ〜……」

「カンカン?カンカンだって。また皺が増えるな」



ププッと笑ったその上忍はナルトに「グッジョブ!」とか云うと、向こう側の木に飛び移った。

それを見てカカシは思い出したかの様に呼び止める。



ー。おっかえりィ〜〜!!」



その言葉に釣られる様にナルトも「またなー」と叫ぶと、騒々と音を立て乍らあちら側が暗く染まった。



「あれ?トサカ先生ぇ、もう約束破られてる!あははははっ………」

「だーれがトサカだとぉー?」

「いやぁぁぁぁああああ!!!!」










■ $ ■










火影の居る一室では、上忍二人と火影その人で計三人が揃えられていた。上忍の一人とはで、もう一人はつっ立っ

ているの体を調べている紅だ。



「火影様。異常はありません」

「ご苦労だった紅。もう下がってよい」



身体検査だ。これまでの一ヶ月間、暗部の監視を退け消息を絶っていた彼女への軽い忠告でもある。

しかし火影は穏やかだ。



「暗部の事はいつから気付いていたのかな?」



尋ねる火影に表情を変える事はなくは答える。

二ヶ月半前の此処を出発した時からバレバレだった。ふざけんな、この皺の化け物……とでも云いそうである。

不満たらたらな顔をする上忍を見て、火影は悟った様に笑った。



「すまぬ、すまぬ。いろいろとこちらにも事情と云うものがあってな。ところでよ。この一ヶ月間いったい何をしておっ

たんじゃ?何か収穫があって戻ったんじゃろうに。」

「暗部の試験を受けてました。その後は墓に」



半ば投遣りに云われたその二つの報告で、火影は矢張り……と顔を顰めた。どちらかと云うと、後半の部分に反応し

たのだ。



「そうか。矢張りばれておったのじゃな?お主にとってはつまらないものだったじゃろ。勿論、暗部の方はお主が欲し

いと云っておる。いつになっても構わん。良い返事を……期待しておるぞ」

「はい」

「もうひとつ訊くが……よ。お主が消息を絶っていた間は、良い息抜きにはなったのかな?」



“墓”の事だ。火影はまだそこへ行った理由を知らないから、結局訊く事にしたのだ。否、聞いておくべきと思った。

あの時、まだ中忍だったを格上任務に向かわせてしまった己の失態。これを失態と呼んでは彼女の立場が無くなっ

てしまうのかもしれないが、あれは、あの時に罪の無い子供やを地底に追い遣ってしまったのは自分のせいだと、

今でも火影は後悔している。きっとこれからも変わる事は無いだろう。

その子供とは――いつしかの白の様な――孤独な人生を終えた人物だった。

は救われないのではない。あの時カカシによって与えられたものにより、自分で決断したのだ。

上忍になって何を見たのか。暗部へ行って何を思うのか。

の顔からは、いつもの人を馬鹿にする様な表情は消えていた。“本来”の彼女の顔だ。



「……はい。暗部試験の結果を報告して来ました。」

「ふむ。それで何と云っておった?」

「自分で考えろ。だ、そうです。あれは私を怨んでなんかいません。私はただ……」



はそう云い、室を後にした。

火影は思う。彼女はあの日、誰かに頼まれた訳でもないし、約束した訳でもない。だからカカシに云われた言葉をた

だ受け入れて上忍にまで成り上がったのではないのだ。

死んだ者が人を怨むだなんて、そんなものは生きた人間が勝手に想像しているだけだ。これからの事だって彼女自

身が選び抜き、決断していくしかないのだと。



――ただ……私は良い国を、帰る場所をつくりたいだけなんだ










■ $ ■










真っ直ぐ家へと戻ったは、埃だらけの部屋の窓を開け、ベッドの上へごろんと寝っ転がった。

あまり帰って来る事がないので大して懐かしい訳でもないのだが、今日はよく眠れそうだった。最初は深くまで布団を

被ったが、なんとなく両手で腹の辺りまで捲りあげてしまった。



「暗部」



頭の中で“暗部”という言葉が過ぎったので言葉にしてみる。



「あんぶ あんぶ あんぶ あんぶ」



口にしてみると妙なものだ。何が暗部だ。何が上忍だ。なんだか眠気が猛烈に襲ってきて、笑が込み上げて来る。

明日は何をしようかな………

そのまま目を瞑り浅く眠った。















初心に戻ってアカデミーへ!


カカシ先生をからかいに行きます。


















選択式にしてみたものの、総合するとすっごく長くなる妙ちくりんな小説です。
放心状態でテレビを見てたらナルトのCMがやってて、「あ、書こう」って思ったそれくらいな
ものなんですが、ギャグにみえてギャグでもないし、暗いという程暗くもないです。(何

“暗部”について巡りめぐってゆくのですが、アカデミーに行くという事はあの人がいます。
もう一つの方は見たまんまカカシせんせです。
この流れで行くとカカシせんせファンに本気で怒られそうな気もしますが(汗
主人公のキャラいいじゃない!っていう素敵な方は勇気を出して読んでみてください。
どうか管理人@kaedeを怒らないでやってください……!!





フラザを閉じてお戻りください。。