gone flower



























蘇生実験という最大の目的に終止符を打った一行は、それぞれの場所へと帰って行った。

三蔵も、勿論その一人だ。

聖天、魔天経文を手に“戻した”彼は、傷ついた体だというのにも関わらず、その眼に一層強い自我を讃えていた。

街を歩く様は、その場にいる一人一人の女たちが放っておかない程の美しさを保っている。

しかし、その身構わず女性に興味の無い三蔵にとって、そんなのどうだっていい事だった。

ある一人の者を除いて。




事の後すぐに訪れた先も、その者のある場所だ。



「帰った」

「お帰り、三蔵。本当に…本当に、お疲れ様……」



見るや否や、その姿をしっかりと抱きしめ、空いていた時間を少しずつ埋めていく。

長かった。本当に。

傷ついた体や心を慰め合うように、互いの体を強く求める。

互いがここに居ることを確認するように。



「俺がいない間……」

「うん。特に異常ないよ。全然、問題なし!三蔵、それより傷の手当てを……」



明るく振舞う彼女に、傷の痛みで麻酔する三蔵の脳では、読み取れぬものがあった。

不自然すぎる程の穏やかさが、此処にはあった。



は妖怪だ。

長い髪で耳を隠し、家が街外れにあるのは、念には念を入れての事だった。

例え妖怪であるとは云え、女性であるが多くの人間に襲われては一溜まりも無い。

妖怪の自我壊滅は、普通に暮らしていける者までをも巻き込むものであったのだ。



その後手当てを終えた三蔵は、傷の修復を待つかのように眠り続けた。

時々触れるの温もりに、無意識で応えながら。



愛しい者が傍にいるせいか、意外にも体の治癒は早いものだった。

朝、台所で支度をしているの後姿を見て、おぼつかない足取りでゆっくりとそれに近づき……抱きしめる。



「うわっ!びっくりした……。三蔵、歩いて大丈夫?」

「あぁ」

「ふふっ……ちょっとだけ外、出てみようか?」




久し振りに2人で浴びる太陽は、暖かかった。

体だけでなく、今までが嘘のように、心までが暖かい。




「ねぇ、三蔵。」

「なんだ」

「ずっと一緒に、いようね」

「当たり前だ。もう……放してやんねぇよ…」

「うん、ありがとう。」







それはまるで

今までが嘘のようだった。













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三蔵の怪我もすっかりよくなり、2人は頻繁に外へと出掛けるようになった。

街を歩き、生活雑貨を見たり、夕飯の材料を買ったり。

そんな時、がふと足を止めたのは、花屋の前だった。

色とりどりの中にいるは、素朴であるが、一層引き立った。

まるで、彼女自身が花のように。




「欲しいのか?」

「うーうん、見るのが好きなだけ。さぁ、三蔵。行こう」




そんな一時の会話さえも、三蔵の心を揺さぶる。

部屋に置くのはだけで充分だと思ったが、喜ぶ姿をもっと見せてほしい。


久し振りに、悟空、悟浄、八戒、の3人に会ってきた日の帰り、三蔵はその想いでたった一輪の花を手にした。

名は知らぬが、らしい白色の花。



家に戻った時、三蔵が花を持っている事にくすくす笑いながら、差し出されたそれにはとても喜んだ。

花が霞んでしまうくらいの、「ありがとう」


テーブルの上に咲いた花は、素朴で、とても綺麗だった。




……」




いつまでもそれから目を放そうとしないに、三蔵は深い口付けを落とした。

放さないのではなく、もう放せないのだ。










幸せだった。

三蔵には、がいる事が。

には、三蔵がいる事が。


互いの傍に、愛しいものがある事が。



2人には、短すぎる春だったのかもしれない。

いつまで待っても、初夏を過ぎる事のない春。



次の朝三蔵が見たものは、目を開かない、愛でるべき花。

名を呼んでも、いくらキツク抱きしめても。

悪夢でも見ているかのようには動かない。



理由が判らなかった。

何故、どうして、何が、どうなって。



白さを増したその花は、再度開花することはなかった。















妖怪退治。

あの後、真実を知ったのはその言葉からだった。

三蔵たちがいない間、そういっては街の民から襲撃をうけたのだ。

その時の傷は致命的なものだった。

ここまで生きながらえた事のほうが、奇跡だと言う。


体に残る事実は、確かに物を語っていた。




どうして自分に言わなかったのか。

解ってはいるが、問いかけてしまう自分を抑えきれない。

穏やかだったものがかき乱され、内臓を抉られる思いを抱く。





2人で暮らしていた部屋に、の為にと手にしてきた一輪の花がある。



「ずっと一緒に、いようね」



形を残したものは、本当に必要としたものでなく、が愛した、白い花。

面影を残したものは、テーブルの上で咲く、悲しい花。



君も枯れてしまうのなら、いっそ……





















8888HIT(ゾロ目です!)を報告して下さった魁斗様のリクでした。
シリアス、暗めという事で、本気で書きました。(いつも本気じゃないのかって話になってきますが…(汗))
如何でしたでしょうか・・・?
私は書いていて、結構精神的にきました…;;;
でも、やっぱり私はシリアスとか書くの好きだな〜とか、再認識してしまったり(笑)

魁斗様、遅くなりましたが、こんなものでよければ貰って下さい><
リク、本当にありがとうございました!

管理人@諫月