D u t y.










パチンと弾けた紙は、宙にひらひらと舞うと、空気を絡めながら床に落ちた。

その音に気付いたのは、本当にその場が静かだったから。

高い天井から射す日差しは、影に潜む男をひっそりと映し出している。

落ちたものを手にしたは、足音も小さく、その傍に寄った。



「はい、団長。」

「ありがとう。」



その一言だけ交わして、また距離を置く。

別に大した事がない為、昼間動く事がない旅団にとって、この時間は自由なのだ。

だって、やりたい事はたくさんあるだろう。

だが、常にクロロへの忠誠を誓っているフェイタンに代わり、わざわざここに居るのもまた、のやりたい事のひとつでもあった。

熱い信頼を寄せているとか、愛があるとかではなく、ただクロロに興味があった。

こう言うとどこかの奇術師と同じにされるかもしれないが、はっきり違うとも言い切れない。

ただ興味がある。

それだけの事だ。

本を読み、座り続けるこの人間が、仕事となると大きく変わる。

その変化が、面白くてしょうがない。

と言うか、此処に居る、ただ本を読んで座り続けるクロロが、は気に入っていた。

「どうかこのままで」と望む程。

旅団のメンバーに言ったら追放されそうな言葉だが、思いで止めればいい事だ。

思い続けることができれば、それでいい。














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時間が経つに連れ、クロロは読書の為にとった光によって移動していった。

それを感じながら、も瞳を一点一点移動していく。

鼓動も、ひとつひとつ増す。

そして、夕暮れの太陽がに傾いた頃には、真向かいにいたクロロは丁度自分の隣へとやって来た。

この近距離で会話もないと思うと不思議だが、それが妙に自然だった。

それも全部、クロロのせい。

飛んだブックハンガーを拾った以来の距離。

あとは沈むだけの陽に本を畳んだクロロは、そのままゆっくり口を開けた。



「ふー・・・・・少し凝ったな」

「団長、真剣に読んでたもんね。」

「あぁ。お前はどうなんだ?」

「楽しかったよ。団長の観察。」



くすくすと笑うに、クロロはやれやれと頭を掻いた。

無意識で此処まで来てしまったのだろう。

その行動が、にとってはとても面白いものだった。

少なくとも、他の団員がいては味わえないこの感じ。

そしてその時は、先程気付かなかったクロロの左指の異常に目を留める。

本の上に置かれた、長い指。



「団長、怪我した?」

「・・・・・?本で切ったんだろう」

「マチに縫ってもらわなくちゃ」

「・・・・・勘弁してくれ。金がいくらあっても足りなくなるだろ」



思わぬのギャグに、困った顔をするクロロ。

縫うことで伴う痛みではなく、金銭面を気にするところがクロロらしい。

マチだって、団長相手に金品を取る訳がない。

悪戯なに何を思ったのか、クロロは口隅を挙げて、を見た。



「お前が治してくれないか?」

「私が?」

「あぁ。手を、こうして・・・・・・」



癒してくれと伸ばされた片手をの頬に添え、クロロは次に、その顎を捉えた。

時間を掛けて固まった傷が肌を掠め、ざらっとした感覚がに伝わる。

驚いたがクロロの手を払おうとした時、無駄のない動きでぐうっとクロロの顔が近付き、

二人の唇が重なった。

まるでを食べるかように口付けるクロロは、の腰、首の後ろに手を回し、彼女の口内に

深く舌を伸ばした。

合わさった唇を行き来する赤い舌。

舐められた柔が艶をもち、妖美に輝く。

呑まれそうな程の深いキスは、の目尻を潤ませた。



「……泣くな。」

「…でも、団長っ……」

「ずっと此処に居ればいい。俺は遠くへは行かない。」

「・・・・・・・・・・・」



――いつしか忘れてしまったものを思い出し、時を経てまた忘れようとするかのように。――




涙を止めないを腕に強く抱き、クロロは冷めた目で遠くを見つめた。

事を起こしつづけるのは、仲間の為と自分の為。

君のために自分は、何ができるのだろう。

危険と隣り合わせに生きているせいか、今日のような静かな一日には、残酷な想像をしてしまうものだ。

絶対的なものを失う不安。

ブックハンガーをわざと投げて、自分の近くに手繰り寄せてみても。

そんな行動自体が、とても残酷なことなのかもしれない。


君のためにできることは、ただひとつしかない。



「大丈夫。俺は、のために、生き続けるから」



















切ないです。
ほのぼの書いていたらこうなってしまい・・・・・。
あぁ・・・・・・・・。

もう、なんか最後の言葉とか、フラグ立ちすぎというか、
次回作があったら、確実にクロロさん、さようならのパターンというか…;;;

だから、続きは書きません!

なんか、シリアスラブラブギャグみたいなの、書いてみたいな…何