Find away.





















探しものは何ですかー 見つけにくいものですかー

あぁ。見つけにくいさ。

は頭の中で回る音楽につっこみながら、陽が沈みかける同じ道を何度も行き来していた。

手には、さっきからずっと握られている携帯。嫌な気分を振り払うように、歩きながらバックの中を探したりもしたが、

はじめに確認したように、目的のものは出てこない。

周りが暗くなるにつれ焦りが濃くなるは、後悔すれば昨夜にまで至る。


「あー、どこ行ったんよキーホルダー…」


最高気温32度。5月最後の、一番暑い日の事だった。




* * * *    * * * *




翌日。の気は晴れることがないまま、その足で学校へと向かった。頭の中はひとつの事で埋まったっきり、はっ

きりしない。昨日もよく眠れなかった。

―楽しい日の筈だったのに…―

そう言えば、2日前もこんな感じであった。

突然上がった湿度のせいで寝つきが悪く、“久し振りに友達と出掛ける”という興奮も混ざり、結局は3時間しか休ん

でいなくて。起きて時計を見ると、待ち合わせまで30分とない大惨事で、急いで支度、電車に乗って、走ってそこま

で行ったのだ。

きっとそこだ。その時、時間を確認する為取り出した携帯。

落としたのは、その瞬間に違いないだろう。


「カラオケ、ゲーセン、プリクラ、買い物……楽しかったのに、あ゛ぁーー!!!」

「うるせぇ…」


この数時間、走馬灯のように走る“それまでの出来事”に、屋上に居たは大きく唸る。

その場を共にしていた人はさっきまで面白そうに、その悶絶を見ていたのだが、やがて苛々してきたのか、やっとそ

う口にした。


「早くしねぇーと授業はじまっちまうぞ」

「食が進まねっス……」

「本気で言ってんのか、お前…?まぁ、そんな貧相な飯じゃあ、しょうがねぇけどな。」

「母ちゃんの弁当を貧相言うな!って、食うな!」


ギラギラと照りつける太陽の下。元気のないの隣には跡部が座り、その遠くでは3年レギュラーが、そろそろ

過ごす場所を変えようかと話している。


「で、お前は何を失くしたんだ?」

「ぶはぁー!!」

「うぉっ!」


いいタイミングで質問し、いいタイミングで吐いたに、跡部もいいタイミングで避けたものだ。

そんなこんなでの口から噴射された「バヤリースオレンジ」は、アスファルト上で蒸発する。


「なんだよ突然?汚ねぇ…」

「マズイよ、あとべー。うん、忘れよう!」

「はぁ?」


吐いた挙句に訳のわからない事を言い、固まった笑顔でその場を切り抜ける。

何がマズかったって、跡部の質問でなく、の“失くしたもの”なのだ。




* * * *    * * * *




小学生の頃。親同士の繋がりで知り合った跡部は、今までに認識のない、タガビーな少年だった。

はじめて会った時は、いきなり呼ばわりだったし、何においても上からものを言う。

友達になれないと思ったのも、多かれ少なかれ、自分も跡部に近い“自尊心過多気質”を持っていたからであろう。


『俺は明日、新しく出来た水族館に行くんだ』

『…ふーん』

『行きたかったら一緒に連れてってやってもいいぞ!』

『……べつにいいもん』


―本当はすごく行きたかったクセに―



その日の帰りは、昨日探した場所まで寄り道をしていた。

停車駅から歩いて5分の道のり。今日は念の為の眼鏡を持ってきたから、準備は万端だ。

レンズを通してよくよく探す。


「どこ行った、キーホルダー?」


跡部の父親は、成功した企業の社長さんか何からしい。金持ちの息子は一人、水族館を独占して、ショーを見たと

か、イルカに触ったとか。

羨ましいのを隠す為に、ムスっとしていた自分。

その時、その手に渡されたもの。


『これ、お腹のとこ押すと、口光るんだぜ 』

『・・・・・・・』

にやるよ。しょーがねーから』




携帯のストラップについていたキーホルダー。ストラップ健在なのに、一個だけどこかに行ってしまった。

それもなんだか悔しいし、思い出が消えてしまうようで悲しい。


「おーい!口が光るマンボウ形のキーホルダー!どこいっ……」

「…おい」


が一人で叫んでいると、突然ぐいっと肩を捕まれる。

警察の職務質問が来たか!と思いきや、振り返ったは、むしろそっちの方がマシだったと、冷や汗を掻く。


「景吾…」

「氷帝の恥だ。黙れ」

「くっ……」


その言葉を受け、下を向いたは、跡部の顔色を確認する為、上を覗く。もちろん、怒っているその人は、今ま

でに見たことのない形相をしていた。叫んでいた内容も、聴こえていたのだろう。


「ごめん、景吾……」

「お前、あんなもん、まだ持ってたのかよ」

「へ?」

「女がこんな遅くまでうろうろすんな。帰れ」

「……やだ」


跡部の命令のような忠告に、今度はが逆ギレし、言葉を返す。


「ヤダ!見つけるまで探す。」

「また買やぁーいいだろ」

「ヤダ。」

「………(怒)」

「だってあれは一個しかないんだよ?景吾から貰ったやつ……なんかマンボウってとこが気にくわんし、口が光って

ムカツクけど…」

「…何が言いたいんだお前(怒)」

「ち、違くてその……大事じゃん、イロイロ…」


落ちかけた眼鏡を掛け直し、、ヤケ半分に暗い辺りを探りだす。

失くした事がバレてしまったのなら、本人公認でめいいっぱい探せるだろう。嘘をつかなくてもいいし、罪悪感なら自

分だけ感じればいい。

はっきり言って、がそんな事を考えていたかは不思議だが、ガムシャラになったどこかで、そういう想いは少なか

らずあったろう。

あの“マンボウ”が自分を連想させるものだとしても、跡部がそう思うならそれでいいし、どんなに高いものを貰うより

も、その気持ちが嬉しかったのだ。


「いい加減にしろっ」

「…ヤダ」

「さっきからその“ヤダ”ってなんなんだよ……。“コレ”がんな大事か」

「?」


その瞬間、の中で流れ出すもの。

探しものは何ですかー 見つけにくいものですかー

見つけにくいけれど、それは確かに跡部の指先で揺れていた。押せば光る、マンボウ形のキーホルダー。


「あ‥あった!」


脱力感よりも喜びが勝ったは、急いで跡部に駆け寄る。

少し汚れて見えるのは、年月のせいだ。


「な、なんで?」

「あーん?の掛け慣れてねぇ“眼鏡視力”よか、俺様の持って生まれた……」

「スゴイぞあとべー、さすが部長!」

「…関係ねぇーし、ってか、最後まで聞け」


眼鏡を外し、よくよく眺めるの頭をぽんぽんと叩くと、普段より柔らかく、跡部は笑った。


にやるよ。しょーがねーから」




* * * *    * * * *




キーホルダーが落ちたのは、どうやら金具が腐ってしまったから…らしい。

その部分だけ買い換えるのも味気ないものだと、(金持ちの)跡部は新しいキーホルダーをに与え、それは彼

女の携帯に並んで揺れていた。


「で、景吾さん。何故またコレは“マンボウ”なのだい?コラ」

「文句あんなら返せ」

「ヤダ」

「お前、自分が何歳かわかってねぇーだろ……」

「ピチピチのじゅ…って人の弁当を食うな!!」


そして、2人にはまた新しい思い出が出来る。

今はうるさい現状だとしても、少しずつ互いの信頼が高まる、タイセツな出来事。












13333打、Hit for かなたsama ☆

本当にいつもお世話になっております。
今回も、誰もが黙通しだったHitを拾ってくださり、感動の涙が…っ
リクの方は、景orリョの甘ギャグ/シリアスというものを頂き、今回は景甘ギャグちょいシリ(不)
にしました。

何かといろいろ迷うところがあり、スランプ気味だった私には、ちょっとシゲキのあった作です。
どうすれば、何をしてもらえば嬉しいとか、その人らしさとか。普段書くものよりも、誰かの為に
と考えて書くものの方が、いい意味で緊張感があり、難しいものだと再認識しました。
神経を使う代わり、いいヒントに気付いた、良い機会でした。

突然の質問にも快くお答えしていただき、本当に感謝しています!
随分お待たせしてしまいましたが、たくさんのお礼にできれば幸いです。