097、ひまわりの花



















両手でたった三本持つだけで手一杯になってしまう程大きな花。

色の無い世界に挑発的に咲き狂う。

大きく、長く、原色的に。











夏休みがはじまり、人ごみや車の渋滞に苛々がつのる8月初旬の熱帯気候。

電車に乗り継ぎ、汗をぬぐうサラリーマンや、日焼け防止の為化粧を重ねるOL、制服を

ぐしゃぐしゃに乱す学生など、見ているだけでむさ苦しい光景の中を、一本の黄色い線が

走り抜けて行った。


手の中に納まりきらなかった太い茎をワキの下ではさみ、腕を器用に絡めて抱える。

一瞬その少女に目を止める者はいたが、この暑さに思考を奪われている人間達には、

本当にどうでもよい事だった。



駅から出たは、散々車内の冷房に触れた花を気にかけ、学校までのバス停を通り過ぎ

ギラギラ照り出された太陽の下を歩き出した。

なんとか混雑を抜け住宅街へと差し掛かったが、その道の先が砂漠のように歪み、紅茶に

砂糖を溶かした時のようにモヤがかかる。

まるで行く先が何十キロもあるようで、考えただけで体中の汗が滲み出るのが判る。



いくらタフなとて、バスに乗り込まなかった事を後悔した。

しかし、休む場所など途中であるわけも無く、力強く地を踏み進む。


家並みに隠れているあの建物さえ見えてくれば、なんとかそれも無くなるはずだ。

そして、着いたらすぐにあの場所へ向かおう。











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丁度が校門に着いた時、その前に一台のバスが停まった。


歩いて30分、バスなら10分かかるか掛からないか位だろうか。

ガンガン効いていた冷房室の中から、部活へ出る者、補習へ参加する者などの姿が次々と出て

くる中、が目を止めた人物がいた。



やんか。もしかしてお前、歩いて来たん!?」

「うん。すっごい疲れた・・・・っていうか、おっしー遅刻じゃない?」

「ん?まぁ堪忍してや・・・・。ところでは何しに来てん、花なんか背負いおって」

「いいから、いいから!!早くコート行こう!!」



まだ冷えた体が外に馴染んでいない忍足の背を押し、はそのままテニスコートへ向かう。


何故が自分と同じ場所へ向かうのかという疑問は無かった。

彼女がこんな日に来るといえば、あいつに会いに来たんだろうと。


そこからは、部活をする男子の声と、他校と思われる女子の声とが交ざりあい、何とも異質な空間

が出来上がっていた。

いつも見ているものだが、慣れる事はない。


フェンスをカチャカチャといじり、と共に一歩進んだ忍足は、ある人物の嫌な視線を気にする事

もなく、涼しい顔で出方を待った。



「おい忍足、遅刻してきて女連れとはいい度胸してんじゃねぇーか」

「そな恐い顔せんといてーな。遅刻の分はあんたに言われんでもちゃんとやる。の前で恥かか

れへんしな」

「あははっ、おっしー遅刻の時点でアウトだっての(笑)」

「ホンマかいな!?キッツイなー自分・・・・。腹癒せに走ってこー」



肩を落とした忍足は、持っているものを置き、少しに笑いかけてからランニングへと向かって行った。

そこに残ったのは、花を持った少女と、部のカリスマ。

忍足が纏っていたものと明らかに違う空気に、呆れながらも跡部は影の映るベンチへとを座らせた。



「ところで、お前は何しにきたんだ?」

「ん?いや別に。あそこの女の子たちと一緒で、目の保養しに、かな?」

「あーん?そんなら俺一人で充分だろう?」

「はいはい。景吾でもう、お腹いっぱいですよ、あはは」



強気な姿勢なのは、お互いに同じ事。

俺様系の跡部と、攻撃系のでは、時にどちらかが退かねばならないのだが。

でも、そんな関係が逆に周りにとってお似合いなのかもしれない。



「実はね、今日来たのは景吾にコレを貰ってほしいからなんだ」



そう言っては手にしていたものを跡部にくいっと差し出す。

大きな、大きな、黄色の花。



「ひまわりかよ・・・・・何でんなもん俺が貰わなきゃならねぇーんだよ」

「んー・・・・よく分かんない。でもさ、これ見た時景吾にあげようって思ったんだよね」

「んな地味な花俺様には合わねぇーんだよ。それ持って帰れ」

「ヤダー!貰ってくれるまでつけ回す・・・・」

「・・・勝手にしろよ」



どうしても渡したい、どうしても貰わない跡部。

それぞれの想いは、強いものだった。











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いくら昼の長い夏とはいえ、時間が経てば陽も暮れる。

太陽という、ひとつの栄養無くしては、やがてそれにも限界はやってくる。

元気を失っていく花は、の願いと温もりによって、やっと原型を止めている状態だった。



、あとは片付けだけやから、一緒に帰られへん?跡部の奴、意地でもそれ貰わん気ぃーやで?」

「おっしーさんきゅ〜。でも、もっと踏ん張る!地の果てまで追いかけてやるんだ!!(笑)」

「・・・・・も、疲れとるやろ?」

「いいーのいいーの」

「そか。ほな気ぃつけて帰るんやで」



こういう役に回るのはしょうがないと思いながらも、忍足はそうする事しか出来なかった。

もっと強引にいけたらとは思うが、それでは、が振り向かないことを知っているからだ。

こういう立場も、時としては辛いものだと思いながら、忍足はテニスコートを後にした。



「まだいたのかよ」

「つける準備は万端だからね」

「ったく・・・・・帰るぞ、おら」

「?」

「俺が貰うまで着いて来るんだろ?やってみろよ」



上手く跡部の思惑に嵌ったというのか、はたまたこれが跡部の優しさなのか。


ひまわりの花が似合わない男の後ろに、ひまわりの似合う少女がキレイに笑った。


















企画2段目終了。

何で、ひまわりなのに跡部かは・・・・・知らねぇ!!(爆)
いや、知ってるんですけどね(笑)

ひまわりって言うと、似合う人が浮かんでくるものですけど、それではありがちになるので
「似合わない人」を書きたかったのです。

とりあえず青学Rは皆似合ってしまう為、他校に変え。
不動峰の伊武くん辺りいいかなと思ったんですけど、景吾さまの方が似合わないと思いま
してね。

まぁ、そんなこんなです。
これは他でもUPします。
景吾サイドで、花を受け取らない理由です。


2003/4/10