「いいな〜亜久津。あんな可愛い子の熱視線もらっちゃってさ〜」

「別に俺は頼んでねぇ」



















フェンスの向こう























体育館倉庫を探して。

裏庭の影を探がして。

屋上の水室タンク上も探した。

その姿がテニスコートにもないとなると、今日は学校をサボっ

ているのだろうか。

はぁーと溜息をつくと、帰ろうと踵を返した後ろから話し掛けた

人間がいた。

10メートルくらい先から走ってきて、緑色の格子の間から笑顔

を覗かせる。

お調子者の男の子。



〜♪今日も来てくれたの?」

「うん」

「もしかしてあっくん?」

「今日も休み?」

「うん。今日も休み」

「そっか」



それならば用は無いと、また見せた背中をオレンジ色の線が

止める。



「亜久津なら、もうここには来ないよ?」



なんとなくの予感を抱きながら、は記憶を辿った。

久し振りに彼が打ち合うと聞きつけて向かった一つの試合。

伴爺は意味深に、「これが最後」だとか言ってたから、今がチャン

スだとばかりに足を動かしたわけだけれど。

相手の小さな男の子じゃ、完璧に勝ちをもらってしまうと、不安

になってる自分がいたけれど。

負け試合だった。

喜んでいい筈なのに、ちょっと不服で。

休み明けに私は、退部届けを出していた。

この感情が何かは解らないから。














洗濯物を干し、体育館の傍、外にある水道で、私はタオルを水に

浸けていた。

少しだるい手つきで水滴を落としす。

はぁーっと息を吐くと、2週間ぶりに見る姿が私に写った。

前の私には考えられないくらいに久し振りの人。



「何の用なんだよ」



表情も変えず、不機嫌そうに目を背けてそう言う。

そっちが来たのだから、その問いはおかしいというのに・・・・・。



「千石がここでお前が待ってるっつったから来てやったんだよ」



早くしろと急かす反面、彼は懐から煙草を取り出して木陰に

座り込む。

多分、千石が気をつかってやってくれた事なのだろう。

なんとなく掴んでしまったチャンスを目の前にして、私は頭に

あった疑問を解こうとしていた。

教えてくれる

この人が。



「仁くん、彼女でもできた?」

「あぁ?お前、俺に惚れてんのか?」


「彼女、できた?」

「なんでそんな事言わなきゃならねぇーんだよ。関係ねぇーだろっ」



2度も聞いたのに答えない。

それでも口を開こうとした私を遮るように、亜久津は一言「いな

い」と答えた。

機嫌が更に悪くなったのは当たり前で、その隣に間隔を空けて

座った私は、今自分が何を言おうとしているのかが、よく解らな

くなっていた。



「負けたのが悔しかったわけじゃないでしょ?」

「あぁ?」

「テニス部辞めたの」



勿論、こんな事を突然言われて、怒らない亜久津じゃない。

それに、元々私は、テニス部を辞めろと、ずっと勧めていた張本人

だったんだから。



「で、てめぇーはまた俺にバスケ部に入れっつーのか」

「・・・・・・・」

「俺はもう部活なんてくだらねぇーもんしねぇーんだよ」


「辞めた」

「・・・・・?」

「私、部活辞めたから」



この人にしては、よく変わる表情がその時楽しめたのだろうけど、

私には、それを見る余裕はなかった。

言いたい事がたくさんあって、早くいろいろ聞いてほしかった。

答えが解けたスッキリ感は、まだなかったけれど。



「バカか、お前?」

「嘘じゃない。これは、今月いっぱいまで居てくれって、顧問に

頼まれたからやってるだけだし…」

「で、それを俺に言ってどうすんだ」

「テニス、続けてほしい。」



ほら

また変わった。

今度は怒って、次に笑った。

私は真剣に言ってるから、多分いろんな意味で可笑しいん

だと思う。



「お前、何考えてんだ?」

「分かんない。でも、仁くんには、テニスを続けてほしい」



とにかくがむしゃらに、私は頼んでいるのかどうなのか、よく判ら

ない勢いで亜久津にせがんだ。

部の先生に言われ、亜久津を勧誘する為に出向いたテニスコート。

その奥にいる、人を引きつけない暗い練習場に行く。

毎日、毎日

なんであの時に気がつかなかったのだろう?

それは願望というより欲で、自分はいつも、亜久津にテニスをして

いてほしいと思っていた。

まるで自分じゃないように、ズキズキと胸が痛んだ。



「今度は伴爺にでも頼まれたか?」

「違う。私、テニスをしてる仁くんが、好きだから」

「あぁ?」

「青学との試合で私、悔しがる仁くんじゃなくて、本当の仁くんを

見た気がしたから」



カッコイイとか、技術がスゴイとか、そんなしょうも無い理屈じゃな

くて、ただ私は、いろんな人に強い亜久津を見てほしかった。

彼の本当の姿を見てほしかった。

その横っちょで、信じてもらいたい一心でバスケ部のマネージャーを

辞めたのだ。



「テニス、続けてほしい」

「……違ぇーだろ。」

「え・・・・・?」

「お前、今こうしている俺のことは、どう思ってんだ?」

「………」

「答えろよ」



いつの間にか消えていた煙草の煙。今の私に一番必要なものだっ

たかもしれないのに。

濁した気持ちはしっかり亜久津に見えている。

答えたら君は、私の願いを聞いてくれますか?



「好き。テニスをやってる仁くんも。ここにいる仁くんも、好き。」

「ふっ・・・・・じゃあてめぇーは、ここに居る俺がテニスをやれば最高っ

て事なのか」

「……うん。」

「最高・・・・・か」














その後、仁くんはまたテニスをはじめてくれた。

強かに装った告白はあっさり流されて。

でも私の欲を一つ晴らしてくれたから、別にどうだっていい事なの

かもしれない。

悲しいと思うのはしょうがない。

大好きな仁くんが、こうしていてくれるだけで。


すっかり退部が認められてしまった私は、表向きの理由なくして

コートに向かうわけだけど、部の人は「暇人」や「いつもの事」で

済ましてくれてるみたいだから、安心できる。

とりあえず、邪魔ではないみたいだ。

ラッキーに感けているキヨも、時々こうして手を振ってくれるし。



〜!いらっしゃい♪」

「どうもキヨくん」

「くぅ〜・・・・・可愛い!!ダ〜イブ!!」

「あ・・・・・・・・」


「バカ」



笑いをとる為にやってくれたのか。

両手を広げておもいっきり突進した拍子に、キヨはいい具合に

フェンスに激突した。

ガシャンと揺れた先には、ラケットを持ったユニフォーム姿の

仁くん。

見上げてしまう位の長身は、立てている髪が更に大きく見せた。



「てめぇーも暇だな」

「うん。部活もないし。今はこっちに専念・・・・かな」

「邪魔くせぇ・・・・」

「見てるだけだし・・・・・・ダメ?」

「違ぇーよ。コレだコレ」



カシャンッカシャンッと音を鳴らせ、網目に指を絡めた仁くんは、

主張するように私を見た。



「・・・フェンス・・・・・?」

「よく見えねぇーだろ。俺が」

「うん?」

「それに、お前に触れねぇ」



フェンスの間から見えた仁くんの白い手の上に、私は無意識に

それを重ねた。

そして受け取る。




「こっちに来い。俺の傍に」










片割の想いを




































ほんのり甘く
切ない感じがします。
仁くんラブってなかなか難しい!><;

フェンスの向こうから、こんなことを言われたら、私だったら甘死します(笑)

ちなみに私は、テニプリの中で、仁王子が一番好きです!
カッコイイなぁ(′д')=3